関西地方では、ただ“肉”といえば牛肉を差し、
肉ジャガといえば牛肉を使うし、
カレーへも当たり前に牛肉が使われる。
中華まんは“豚まん”で、
そういえば“肉まん”とは言わないなぁと気がついたのはつい最近。
関東では“牛鍋”と呼ぶ、すき焼きの始祖なる鍋料理、
関西で発祥していたらやっぱり“肉鍋”になってたことと思います。
これってどうしてなのかを情報番組で知ったのもつい最近。
それによれば、
仏教的な考え方から、
鷄と鯨以外の獣肉は食べてはならぬとされて以降も、
関西地方は近江の辺りで、
病人への滋養に用いるため、
搾乳したり肉を食べたりするための牛を飼っていた。
そんな関係から、
他の土地では農耕の共という把握の牛を、
食べもするという文化が廃れずに残っていたのだそうで。
なので、わざわざ“牛肉”を特別扱いするどころか、
肉といやあ牛という感覚が、
ごくごく普通に浸透しているんじゃないか…とのこと。
「やっぱ商業の町だから剛毅なんだろな。」
「いや、そればっかでもなかろうよ。」
でもサ、
舶来品は何でもかんでも横浜が始まりと思ってたら大間違いで、
ゴルフはまず神戸に上陸したっていうじゃんか、なんて。
野菜を炒めていた木ベラを振り回す坊やなのへ、
「判ーかったから それを振るのはやめれ。」
「あ、すまんすまん。」
葉柱邸のおうちキッチンには、
その牛肉と、タマネギやニンジン、
じゃがいもを炒める芳しい匂いが充満しており。
IH調理器にかけられた五層ステンの特殊鍋へ、
差し出されたペットボトルを両手もちにした小さなシェフ殿、
とぽとぽとお水をそそいでおいでで。
ここからは煮立ったら出るのだろアクとりに入った模様。
ペットボトルを差し出した側の長身なお兄さんはといえば。
先年増設した流し台のシンク前で、
蛇口からとったぬるま湯を張ったボウルとアクとりお玉を差し出し、
それと交換で渡された木ベラを、
頼もしい大きな手で洗うのが…これで5回目。
お話ののっけに喩えのお題目として挙げたのでもうお察しでしょう。
今日は日曜だってのに、
朝も早よから、カレー作りに勤しんでおいでの凸凹コンビ。
ぱらぱらチャーハンのカニ入りあんかけとか、
トマトライス入りのチキンドリアとか、
甘辛和風味で煮た煮込みハンバーグも作れるぞと、
小悪魔さまは言ったのだけれど。
『いやいや、そんなまで手の込んだものにしなくとも。』
おうちキッチンには あいにくとオーブンまではないし、
チャーハンは鍋を振るうのが重労働だろうがと。
手慣れたカレーが無難なのではないかと、
諭すでなし、懇願するでなし、
淡々と言い返した葉柱さんチの次男坊だったので、
それもそうかとあっさり折れた子ヒル魔くんで。
『何でしたら厨房をお貸ししましたのに』
なんて、葉柱家チーフシェフの久丸さんが言いかかってたらしいけれど、
それは高階さんが目顔で止めた。
だって……ねぇ?(笑)
「ルイ、ボウル、お代わり。」
「ほいよ。」
やっと煮込み始めたばかりだってのに、
空っぽだった洗いもの用の水きり棚には、
ザルが大小5、6個に、お玉が数本と包丁も数本。
ボウルが7つに、木べらと菜箸も何組か。
どれも何度かは洗われては伏せられを繰り返しておいで。
絶好調です、魔法の調理。(大笑)
ついつい遊んでしまう訳でもなけりゃあ、
手際が悪い訳でもない。
ちょっぴり大きめのトレーナーを勇ましくも腕まくりして、
小さな手やまだまだ寸の足らない腕、
調理台の遠くや上へは、
微妙に踏み台が要る身長でこなしているにしては、
堂に入った、無駄のない要領にて、
てきぱきと進めていると思う。
野菜を切り揃えの、肉の余分な脂を切り落としの、
それを使って根野菜の下炒めをする…なんてな裏技まで繰り出しのと。
小学生で、日頃の毎日とまでは家事に接してない男の子にしては、
むしろ大したものだろう。ただし、
何でだか どうしてだろか
野菜を切ってた途中で、
切れ味が気に入らなかったか別の包丁を引っ張り出したり。
木べらはフライパンとの高さの相性が悪かったか、
1つはうっかりと足元へ落とし、
1つは途中で持ち手が熱くなったと取り替えた。
ボウルは、野菜を投入する順番をついつい間違えかかり、
鍋じゃなく別のボウルへの移動という、
すんでのところでの早技にて救われたりもし。
その他、いろいろいろな間合いの徒然に、
その小さな手が次から次へ、
器具・容器を掴んでは、取り替え 持ち替え 入れ替えるもんだから。
お片付け&無駄のない器具を差し出す担当が傍らにいないと、
引き出し漁りまくって、何でも使って、
途轍もなく凄まじい惨状にだってなりかねぬ。
もしも もっと広くて器具も山ほど整っている、
ご立派な当家自慢の厨房で手掛けたならば、
“…想像するだに恐ろしいってな。”
そうですね、総長さん。(苦笑)
「ん〜っと、あとはルウを入れたら終しまいっと。」
一旦火を止め、市販のルウの箱を取り出し、
えいしょ・うんしょと封を切り、
密封されたルウを引っ張り出すと、
ぱきぺきと折ってばらして投入する手際もなかなかのもの。
毎日の家事ほどには慣れてなくとも、
元々器用な子であるし、勝手には通じてもおいでと来て。
常軌を逸した“散らかし魔”なのは、
一体 何へのどういう相殺なのやら。(笑)
白米のほうも電気釜が頑張って炊いてるところで、
あとちょっとすれば、少し遅いめのお昼ご飯。
サラダはレタスとキュウリに、缶詰のアスパラガス。
トマトのスライスも添えましょか…と、
小型の冷蔵庫をのぞき込む坊っちゃまとしては、
“こんだけ勘が戻っていりゃあ、
あしたは何とか万全でフォローに回れそうかな。”
何と言っても明日は“愛妻の日”とかいう日だから。
そしてそして、あの不義理な親父殿、
あちこちへと食材のお取り寄せを
発注しておいでであるところから察するに、
何かしら手作りのお料理でもと構えておいでであるようなので。
お父上だけに いいトコ見せさせてなるものかとの、
お邪魔虫をする気が満々の坊やであるらしく。
“………まあ、いいんだけどもよ。”
もしかせずとも自覚はなかろうが、
手際の端々で“親父め見てろよ〜”と言わんばかりの
虎視眈々顔を覗かせまくりだった坊やだったので。
何かしらの魂胆への練習もどきらしいというのは、
葉柱の側にもお見通し。
となると、自分は果たして傍観者でいた方がいいのか、
それとも何かしらお呼び出しがかかれば、
駆けつける構えでいた方がいいものか。
いい匂いの立って来た鍋を見やりつつ、
さてどうするかと楽しそうに、こそり微笑って見せた葉柱だった。
〜Fine〜 11.01.30.
*毎月29日は肉の日だから…じゃあなくて、
つまりはそんな企みに、胸躍ってるらしい小悪魔さんで。
何のついでであれ、美味しいカレーは食べられそうなのでと、
傍観を決め込む葉柱さんなのへ米1俵vv
そもそも特に練習せんでも、
お父さんへのお邪魔なら存分に出来そうな坊やなんですしね。(笑)
**

|